香りの歴史について触れることで、古代の人々の香りへの憧れや親しみなどについて知りたいと思います。まずは中東・アフリカに位置するエジプト・イスラエルについて勉強します。
【目次】
香りの歴史をひもとく
香りの歴史はとても古く、古代にまでさかのぼります。現代の精油を使ったアロマテラピーへと進化をとげた香りの歴史についてひもといていきましょう。
古代エジプトの『香り』
神にささげる
紀元前3,000年頃の古代エジプトでは、『香り』は神へ捧げる神聖なものとして、一日三回、樹脂の薫香を用いていました。
朝、日の出とともに乳香(フランキンセンス)を、正午には没薬(ミルラ)を、日が沈む時にはキフィ(干しブドウをワインにつけて一晩寝かせたものに、ミルラ・ジュニパー・レモングラスなど16種類の芳香植物を混ぜたもの)を焚いて神々に捧げていたのです。
また、香りは王や神官だけではなく、民衆にも広く使われていました。
ミイラを作る
エジプトといえばミイラが思いつきますが、そのミイラにも芳香植物が使われています。
エジプトでは、死者の肉体を保存することは来世での生活に欠かせないこと、死者の魂がミイラに宿れば再生・復活するという死生観からミイラ作りが行われていました。
死体から脳と内臓を取り出したあとパーム油で消毒し、ミルラや肉桂(にっけい)といった香料を詰め、その死体を天然炭酸ソーダの粉末に70日間浸し脱水処理をします。最後にシダーウッドの芳香成分に浸した包帯でグルグル巻きにしてミイラが完成します。
包帯をシダーウッドの芳香成分に浸すのは殺菌保存のためだけでなく、香りをまとって身を清め、来世へ行くための許可を神からもらう目的もあるといわれています。
軟膏と香油
エジプトの女性たちは、強い日差しから皮膚を守るために香油を使い、目を保護するためにフランキンセンスの粉末をアイラインとして使っていました。また、いろいろな種類の植物を入れた軟膏を作り、外出時に円錐形の軟膏を頭にのせて、太陽の日差しで溶ける軟膏の香りを楽しんでいました。
ナイル川周辺は植物がとても豊富で、ミルラ・フランキンセンス・ペパーミント・ヘンナ・ジュニパー・シダーウッドなど、毎日の祈りやミイラ作りだけでなく、軟膏や香油にもたくさんの種類の植物が使われていました。
古代イスラエルの『香り』
旧約聖書
紀元前1,500年~紀元前300年頃、旧約聖書の舞台となるイスラエルでも様々な香りが用いられ、旧約聖書に記されています。
第30章
主はまたモーセに言われた、「あなたはまた最も良い香料を取りなさい。すなわち液体の没薬五百シケル、香ばしい肉桂をその半ば、すなわち二百五十シケル、におい菖蒲二百五十シケル、桂枝五百シケルを聖所のシケルで取り、また、オリブの油一ヒンを取りなさい。あなたはこれを聖なる注ぎ油、すなわち香油を造るわざにしたがい、まぜ合わせて、におい油に造らなければならない。これは聖なる注ぎ油である。あなたはこの油を会見の幕屋と、あかしの箱とに注ぎ、机と、そのもろもろの器、燭台と、そのもろもろの器、香の祭壇、燔祭の祭壇と、そのもろもろの器、洗盤と、その台とに油を注ぎ、 これらをきよめて最も聖なる物としなければならない。すべてこれに触れる者は聖となるであろう。
主はまた、モーセに言われた、「あなたは香料、すなわち蘇合香、シケレテ香、楓子香、純粋の乳香の香料を取りなさい。おのおの同じ量でなければならない。あなたはこれをもって香、すなわち香料をつくるわざにしたがって薫香を造り、塩を加え、純にして聖なる物としなさい。」
参照元:口語訳聖書 - 出エジプト記
こういった聖なる香りの調合は神への捧げものとして行われていました。古くから神と人々をつなげる役割を香りが担っていたということがうかがえます。
新約聖書
イエスの教えを記したものが新約聖書です。この新約聖書にも香りに関する記述があります。
マタイ福音書第2章
母マリヤのそばにいる幼な子に会い、ひれ伏して拝み、また、宝の箱をあけて、黄金・乳香・没薬などの贈り物をささげた。
参照元:口語訳聖書 - マタイによる福音書
当時、乳香(フランキンセンス)や没薬(ミルラ)は黄金と同じくらいの価値があり、とても貴重なものでした。これは東方の三使者(博士)が、この世に降り立った救世主イエスへ捧げるにふさわしい品といえます。
現在でもユダヤ人の間ではフランキンセンスは儀式に欠かせない大切な香りとなっていて、安息日には必ずお供え物として捧げられています。
古代の香り➀【中東・アフリカ】で学んだこと
古代エジプト・イスラエルにおいて『香り』は、神と人々をつなげる聖なるものでした。ブレンドするための配合量まで定められていたことにはとても驚きましたが、良い香りを求めるのは今も昔も変わらないことなんだなと、改めて感じました。
また、王も民衆も変わらず生活の中に『香り』が取り入れられてきたことがわかって、民衆に禁じなかったエジプト王が偉大に感じられ、香りの文化が古代から現代までに大きな進化をとげてきた理由がわかったような気がしました。